Warrior On the Edge of Time SUPER DELUXE BOXSET LIMITED EDITION / Hawkwind

 

perucho.hatenablog.com

 

ではさっそく詳しい内容について書いていきたい。

 

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アルバムについて

"Warrior On the Edge of Time"は、United Artistsから1975年5月にリリースされたHAWKWINDの5thアルバム。UKアルバム・チャートで13位を記録、最高傑作に挙げるファンも多い彼らの代表作のひとつである。当時東芝EMIから国内盤もリリースされ、邦題は『絶体絶命』だった。
長らく公式なリイシューが行われていなかったが、今回(2013年の話だけど)ようやく実現した。一時期はあまりの再発されなさにマスターテープ紛失との噂がまことしやかに語られていたが、あくまで権利関係の問題だったようだ。
なおリリース元となるAtomhengeは近年Esoteric Recordings傘下に立ち上げられたHAWKWIND専門レーベル。以前はRock Fever Music等の非公式盤が横行し全体的に質の低いCDばかりだったHAWKWINDであるが、Atomhengeの丁寧なリイシューによって状況は一気に改善された。ありがてえありがてえ
 
  • Dave Brock: Guitar, Synthesiser, Bass Guitar (A4), Vocal (A1, A2, A5, B1, B6)
  • Nik Turner: Tenor and Soprano Sax, Flute, Vocal (B2, B5)
  • Lemmy: Bass Guitar
  • Simon House: Mellotron, Moog, Piano, Synthesiser and Violin
  • Simon King: Drums and Percussion
  • Allan Powell: Drums and Percussion
  • Mike Moorcock: Vocal (A3, B4)

デイヴ・ブロック、ニック・ターナー、サイモン・キング、レミーに加えて、前作から引き続きサイモン・ハウスがヴァイオリン、メロトロン、シンセサイザーを担当。さらにキングの怪我の療養中に代理を務めたアラン・パウエルがそのまま残留、ツイン・ドラム体制となった。

まず1975年1月にOlympic Studiosで3曲がレコーディングされ、うち2曲"Kings of Speed"と"Motorhead"は先行シングルとして3月にリリース(残る1曲は"Spiral Galaxy 28948")。他のトラックは3月にRockfield Studiosでレコーディング、その後Olympic Studiosでミキシング作業が行われた。

 

ちなみにこのアルバムリリース直後のUSツアーにおいて、もはや歴史的とすら言えるレミー解雇事件が起こる。USツアー中カナダでアンフェタミン(スピード)所持により拘留されたレミーを、バンドはツアー中止を恐れ即座に解雇。結果的に彼がメンバーとして参加した最後の作品となった(後に和解してゲスト参加したりはしている)。

またダンサーのステイシアも結婚を機に脱退。このアルバムに伴うツアーが最後の参加となった。

  

さて、今作はイギリスの小説家マイケル・ムアコックの『エターナル・チャンピオン・シリーズ』を題材とした、一種のコンセプト・アルバムである。
HAWKWINDは1972年の3rdアルバム"Doremi Fasol Latido"においてThe Saga of Deremi Fasol Latidoと題した叙事詩(?)のイメージイラストを掲載するなど、以前よりムアコック作品からの影響を匂わせていたが、ここにきて本格的に取り組むことなった(そもそもホークウィンドという名前自体も、多分にムアコック作品を意識したもののようだ)。
アルバムに含まれる3曲のポエトリー・リーディングはムアコック本人の詩により、うち2曲に関しては本人が朗読を担当している。また"Kings of Speed"も、もともとムアコックが自身のソロ・プロジェクトのために作詞した楽曲だそうだ。なおムアコックは完全にタダ働き状態だったようで、インタビューでちょくちょくその件に関して愚痴っている。
ジャケット・デザインとしてクレジットされているEddie Brashは、前作までを手掛けたバーニー・バブルスの変名。イギリスのオリジナル盤では4面見開き、裏面に『エルリック・サーガ』に登場する「混沌の盾」をあしらうという気合の入ったものであった。
 
音楽的には前作の発展形と呼べるもので、以前は好き放題やってる感があった各楽器がしっかりまとまり、よりメロディ(というか歌)を聴かせる方向へと変化した。デイヴ・ブロックのヴォーカルには日本のファンに諸行無常と表現されることもある独特の調子があり、情感を込め過ぎることも淡々とし過ぎることもない絶妙な距離感で物語を歌い上げる。また飛び交うシンセ等電子音が控えめになった代わりにメロトロンが響き渡り、ヒロイックファンタジーらしい壮大かつどこか悲劇的な雰囲気を盛り上げている。サイモン・ハウスは"Magnu"でのアラビア風なプレイをはじめヴァイオリンも効果的に用いており、八面六臂の活躍ぶりである。
アルバムの構成的にも、ひとつの大きな流れを感じさせるA面と、より幅広い曲調を配するB面という差別化が図られている。前作から取り入れられたこの構成、本人たちも手応えを感じたのか以降レコード時代を通して度々登場することになる。
 
 

音源について

今回取り扱うSuper Deluxe Boxset Limited Editionに収録されているのは以下の音源となる。

  • CD1: 新規リマスター音源+8曲のボーナストラック(うち5つはこれまで未発表)
  • CD2: Steven Wilsonによるマルチトラック・マスターからのステレオ・リミックス音源+5曲のボーナストラック(うち2つが未発表)
  • DVD: Steven Wilsonによるステレオ及び5.1chサラウンド・リミックス音源。オリジナル・ステレオ・マスターからの24bit/96kHzフラット・トランスファー音源
  • LP: オリジナル(カッティング)マスターからカットされた180g重量盤

 

リマスター
マスタリング・エンジニアはThe Audio Archiving CompanyのBen Wiseman。UniversalやEsoteric Recordingsで多くのアルバムを手掛ける人物であり、Atomhengeにおけるリマスターのほぼすべてを担当している。
The Audio Archiving Companyのリマスターにはマスター・テープ由来のノイズを除去しつつオリジナルのバランスを壊さない範囲でクリアかつ現代的な方向へ調整を行う、という一貫した方針があるように感じる。
今作のリマスタリングもその方針に沿った、安定した仕上がりとなっている。

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DR値と"Assault & Battery / The Golden Void"の波形

CDの器からはみ出さない(=潰さない)範囲で音圧や各曲の音量バランスが整えられている。Ben Wisemanのリマスターは基本的に-0.05dBをピークの基準としているようだ。ちなみに同じThe Audio Archiving CompanyのPaschal Byrneはピークを-0.10dBに揃えていることが多い。

 
ステレオ・リミックス
Steven Wilsonは自身もPORCUPINE TREEやソロを中心に活動するミュージシャンであり、近年KING CRIMSONXTC等のサラウンド及びステレオ・リミックスも手がけ高い評価を得ている人物。
奇をてらったり現代的な音作りを意識し過ぎたりするようなことのない、オリジナルのバランスを大切にしつつ再構成した仕上がりとなっている。これは彼の手掛けたステレオ・リミックスに共通する特徴だ。
"Assault & Battery"や"Spiral Galaxy 28948"のオリジナルで少々高音がキツかったシンセや、"Magnu"間奏部分でヴァイオリン、サックス、ギター、シンセが折り重なり混沌となる場面が整えられ、格段に鳴らしやすくなった。
このボックス収録の音源のなかで、もっとも余計なことに気を取られず素直に没頭できるのがこのステレオ・リミックスだと思う。
 

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DR値と"Assault & Battery / The Golden Void"の波形

リマスターよりほんの少しだけDR値が大きいが全体としては大差ない程度。"Assault & Battery / The Golden Void"のみピークが0.00dBに達している。

 
5.1chサラウンド・リミックス
ステレオ・リミックスと同じくSteven Wilsonが担当。
聞くところによると、今作はもともと製作時のマルチ・トラックのトラック割り等が独特で、リミックスにあたっての制約が多かったようだ。
実際聴いてみると"Assault & Battery"や"Magnu"といった目玉となる長尺曲において、普段Steven Wilsonが行うようなマルチ・チャンネルを効果的に活用した演出はほとんど出てこない。これらの曲はどちらかといえばあまり音を動かさない、オーソドックスというか控えめなミックスという印象を受ける。てっきり飛び交うシンセやツイン・ドラムを使った派手なものになるかと期待していたので、率直に言って物足りない仕上がり。
その一方で、3つの朗読曲や"Spiral Galaxy 28948"においてはいつもの彼らしい目くるめく音空間が現れている部分もある。特に"Spiral Galaxy 28948"でドラムのフィルイン(タム回し)がリアにまわり込んでくるような場面を聴くと、やっとSteven Wilsonのリミックスを聴いているという充足感が出てきたり。
また"Kings of Speed"は例外的にほとんどの楽器がフロントに定位しているように聴こえ、楽器間の分離もあまり良くなくもやっとした印象を受ける。
おそらくはこうした楽曲ごとの印象の違いが、素材となったマルチトラック・テープからくる制約に由来するのだろう。
まとめると、多少欲求不満になる部分はあるものの全体としては十分聴き応えのある、楽しめるサラウンドに仕上がっていると思う。"Assault & Battery"や"Magnu"も、マルチならではの分離の良さがあり元々の持ち味はしっかりと活かされているので、自分があれこれ挙げた不満点はどちらかと言えば勝手に期待したプラスアルファが無かった、というような種類のものである。
 
オリジナル・マスター
ここまでに述べたバランスの悪さがそのまま出ているのが、当然ながらこのオリジナル・マスターだ。加えて一部ミキシング由来と思われる歪みも確認できる。
しかし中低域の滑らかさはもとより、ここまであくまで問題点として扱ってきた空間を引き裂くがごときアンバランスなシンセの高音さえも、これはこれで他に代えがたい魅力であるというのもまた確か。
これはいわば原典とも呼べる音源であり、これと比較して他の音源について述べることはできても、この音源自体に対してはなんら言葉を持たないということが言えるかも知れないし、調子に乗ってテキトウなこと言ってるだけかも知れない。そもそもこういうことを言い始めたら英初版のジョージ・ペッカムによるPORKYカットがどうこうって話になってしまう。
 
LP
ジャケットはオリジナルを可能な限り再現しており、手にとって眺めた際の満足感が大きい。インナーはもちろん、レーベルも元の雰囲気を残したデザインになっておりこだわりを感じる。盤そのものも180g重量盤。
発売前のアナウンスによるとオリジナルのカッティング・マスターを元に制作されているという。しかしボックスには"Mastered from the original stereo master tapes"と表記されている。ふつうに考えていわゆるマスターテープとカッティング・マスターは別物のはずなのだか、詳しいことはよくわからない。
 
実際に再生してみると、レコードとしてはかなりカッティング・レベルが低く音が小さい。アナログにおいては盤に刻まれた音が小さいということは相対的にノイズが大きいということでもあり、けっこうツラい。
静音性の高い高級オーディオではまた違った感想が出てくるかも知れないが、自分の環境ではこれはちょっとツラいところである。小さい音量で鳴らす分にはそこまでツラくないのだが、せっかくのレコードをがっつり音量上げて鳴らせないというのはけっこうフラストレーションが溜まってツラいところだ。
ちなみにAtomhengeからRSD限定でリリースされた"Kings of Speed"の7インチ・シングルも同じようなカッティングだった。ツラい
 

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マトリクスは機械打ち。チェコのGZ Media製か
 
ボーナストラック
CD1-11"Motorhead"はシングル"Kings of Speed"のB面曲。レミー単独作で、彼のごついベースがぐいぐいと牽引しハウスのヴァイオリンがのたうつ名曲である。
Motorheadはスピード・フリークを指すスラングであり、まさにこの薬物所持が原因でHAWKWINDを追い出されたレミーは自らのグループにもこの名を冠することとなった。
このトラックはBen Wisemanによるリマスターのみで、Steven Wilsonのリミックスが作成されなかったのが残念でならない。マルチトラック・テープの状態やレコーディング工程等に問題があってリミックス出来なかったという可能性もあるが。
 
CD1-12~16の未発表音源は1975年3月のRockfield Studiosで収録されたデモや別テイク。
 

CD1-17"Motorhead (Dave Brock Vocal Version)"は1981年にFlicknifeレーベルからシングルとしてリリースされたバージョン。

オリジナルの"Motorhead"はレコーディング当日にレミーが現れず急遽デイヴ・ブロックが歌い、その後レミーがヴォーカルを録り直してリリースされたという経緯がある。

ヴォーカルをその際に残されたブロックのものに差し替え、その他ちょこちょことオーバーダブを加えてでっち上げられたのがこのバージョン。聴いた感じリミックスというより本当にオーバーダブって印象なので、元々オリジナルからして4トラック程度のベーストラック+リード・ヴォーカルその他みたいな少ないトラック数しか使ってなくて、だからこそSteven Wilsonもリミックスしようがなかたっんじゃないかとか妄想してしまう。

 

CD1-18"Kings of Speed (Instrumental Version)"は基本的にアルバム・バージョンからヴォーカルや一部楽器を省いたもの(実際には逆で、それらを加える前のものだろう)。

1981年にFlicknifeレーベルの第一弾としてリリースされたHAWKWIND ZOOのEPが初出で、以降様々なコンピに収録されている。またその際にライブ・バージョンと銘打たれており、それが"Silver Machine"のようにライブでの演奏をマルチトラック録音したことを指しているのか、スタジオで一発録りしたことを指しているのか不明だった。今回の"Recorded at Olympic Studios, Barnes in January 1975"というクレジットを見る限りは、スタジオ一発録りの方を指すものだったと思われる。このトラックにヴォーカルやヴァイオリン、キーボードを加えてアルバム・バージョンを完成させたのだろう。

こうした製作工程にSteven Wilsonのサラウンド・リミックスがこの曲だけぱっとしなかった原因があるかも知れない。というかさっき書いた"Motorhead"と同じような状態だったのでは?

さらに妄想すると、"Motorhead"に関してはこのInstrumental Versionにあたる段階のテープが現存しておらず、それゆえにリミックス対象から外されたという可能性もあるのではないか。まあ所詮妄想だけど

ちな今回のリイシューでけっこう音質が向上している。

 

CD2-11及び12も1975年3月Rockfield Studiosの収録とクレジットされている未発表音源。CD2-11"Motorhead (Instrumental Demo)"はふつうに考えるとOlympic Studiosでスタジオ・バージョンを収録する前に録られたものだと思うんだけど、どうなんですかね……

 

CD2-13"Watchfield Festival Jam"。これはトラック名からもわかる通り、同フェスにおけるライブ録音。

ウォッチフィールド・フェスティバルは1975年8月23日、HAWKWINDがヘッドライナーを務めたレディング・フェスティバルの翌日に開かれたフリーフェスティバルだった。

ステイシア最後のステージでありこの後バンドに復帰するロバート・カルバートがゲスト参加した前日のレディングとは打って変わって、ここではデイヴ、ニック、アランそしてレミーの後釜として加わった元PINK FAIRIESのポール・ルドルフという最低限の編成で、即興中心の演奏を繰り広げたようだ。

このトラックはタイトル通りのジャムながら定番曲である"You Shouldn't Do That"が骨格になっている。録音状態は良くないがごりごりと勢いのある演奏でなかなか楽しい。最後"Brainstorm"に入るところでフェードアウトするのが残念。

この音源の初出はSamuraiレーベルから3枚に分けてリリースされた"Anthology"シリーズのVolume IIだった。このシリーズ、なんかレーベルのオーナーがバンド側にロイヤリティまったく支払わなかったとか、勝手に音源の権利を売却しちゃったとか、その結果バンド側と無関係なコンピが乱造されちゃったとか、いろいろ曰くつきだったりする。

ある意味では今回やっとまともにリリースされたとも言えるだろう。

 

CD2-14"Circles"及びCD2-15"I Am the Eye"。これら2曲もウォッチフィールド・フェスティバルにおける即興演奏で、録音状態も同じようなものである。

どちらも80年代前半にカセットテープのみの通信販売でリリースされた"Weird Tapes"シリーズ第3巻に収録されていた(後にCD化もされている)。オリジナルでは"I Am the Eye"の後に"Slap It On the Table"と題された短いお遊びトラックが入っていたが、ここでは省かれている。

また"Circles"は後にアルバム"Levitation"に収録される"The Fifth Second of Forever"の土台になったと思われる。

 

総評

今回のリイシューはこのボックスセットのほかにリマスターCD単品、リマスター及びリミックスCDとDVD付き3枚組が用意されている。
ここまでに書いた音源のうちボックスじゃなきゃ手に入らないのはレコードのみ、あとはオマケのポスターとかそういう系の違いなので、とりあえず音源をおさえておきたい方は3枚組のを買っておけばよいかと。ていうか買うべきかと。買いましょう。
個人的には普段どんな気になるものでも予約どころか発売日に買うことすらしない自分が予約したぐらい待ちに待ったタイトルなので、ボックスが入手できて満足です。ただ以前使っていたBDプレイヤーではなぜかこのDVDだけ再生出来ず、BDプレイヤー買い換えてリミックスのハイレゾとフラット・トランスファーが聴けるようになり、さらに最近やっとAVアンプ導入してサラウンド環境構築して5.1chミックスが聴けるようになって、という感じでわりと紆余曲折ありました。今日やっと記事を書き上げたけど、結局ブログの更新自体1年以上ぶり、発売時の記事からだと3年以上経っちゃってるわけでしてね。むしろなんで今更書く気になったのかってレベルだろこれ。
 

 

Warrior On The Edge Of

Warrior On The Edge Of

 

リマスターCD。ボーナストラックは"Motorhead"のみ

 

Warrior On The Edge Of

Warrior On The Edge Of

 

リマスターCDとリミックスCDに加えてリミックスとフラット・トランスファー収録のDVDが付いた3枚組。ここで紹介した音源はLP以外すべて入ってる